大判例

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長野地方裁判所 昭和40年(行ウ)1号 判決

原告

小林幸雄

右訴訟代理人弁護士

松村文夫

右訴訟復代理人弁護士

武田芳彦

被告

長野県収用委員会

右代表者会長

田口忠幸

右指定代理人

森悦子

清宮克美

谷口悟

塚田良治

清水俊一

宮坂正巳

小口秀男

春原秋夫

事実及び理由

一  争点1について

原告の主張は、要するに、法四八条二項(昭和四二年法改正前のもの)によれば収用する土地の区域については起業者が法四二条一項(前同改正前のもの)所定の裁決申請書添付書類によって申し立てた範囲内において裁決しなければならない旨定められているのに、被告はこれに違反して本件裁決をしたことを指摘するものである。

ところで、〔証拠略〕によると、本件計画書(本件申請書別添1の事業計画書)には、本件事業における道路の幅員として全幅員が七・五メートル、車道幅員が六・五メートル、路肩が〇・五メートルと記載されているのに対し、本件裁決の別表第1(実測平面図)には、収用する土地の区域として幅員が一〇・四メートルと表示されていることが認められ、両者を形式的に比較してみれば相違がないわけでない。

しかしながら、起業者が収用する土地の区域として申し立てた範囲については、事業計画書に記載された路面の幅員に関する数値だけでなく、土地調書等における収用しようとする土地の面積の記載や起業地及び事業計画を表示する図面における対象地の表示をも参酌し、裁決申請書の添付書類を総合的に判断して決すべきことはいうまでもない。

〔証拠略〕によると、一般に、道路を建設するには、敷地となる地盤に切土や盛土をした上、擁壁や法留を施し、側溝等を設けるため、道路敷部分の幅員を露面(車道及び路肩)の幅員より更に広く取る必要があるところ、本件事業においても、路面工のほかに、土工(切土、盛土)、擁壁工、側溝工が計画されており、本件区域についても路面の両側に側溝及び法面を設ける構造となっており、横断図では、路面が約七・五メートル、その両側の側溝が各〇・五五メートル、その外側の法面がいずれも約一メートル弱の幅をもって表示されていることが認められる。そうすると、本件計画書における前記のような幅員の数値は、路面自体の幅員を指すものであり、その両側に設ける側溝や法面の敷地部分は含まれていないものと考えるのが合理的である。そして、前掲各証拠によれば、本件申請書別添2記載の収用しようとする土地の面積と本件裁決書主文1項記載の収用する土地の実測地積とが同一であり、かつ、本件申請書別添4土地調書添付実測図と本件裁決別表第一の図面とで場所的にも一致していると認められることに基づいて判断すると、本件裁決における収用する土地の区域は、本件起業者が申し立てた区域と一致し、その範囲を越えるものではないというべきである。

二  争点2について

前判示の各事実に〔証拠略〕を総合すると、本件裁決において収用する土地の実測地積は合計一七六坪とされていたところ、本件事業の施行に伴い本件区域内に実際に建設された道路は、アスファルト舗装の路面の幅員が約七・五五メートル、その外側の側溝の幅がいずれも約〇・五五メートル、更にその外側の法面の幅が約〇・八四ないし〇・九〇メートル、したがって、道路敷地の幅員は一〇・三四ないし一〇・四〇メートルであり、その合計面積は五八三・一九平方メートル(約一七六坪)であることが認められるばかりでなく、被告が実際の道路敷地の幅員として一一メートルを要することを知っていたとか、原告の土地所有権を侵害する目的を有してしたことを認めるに足りる証拠は存しない。

三  争点3について

法一三三条は、収用裁決自体に対する不服の訴えとは別に、土地所有者等から起業者に対する損失補償に関する訴えを規定し、右訴えについて特に出訴期間及び当事者適格に関する定めを置いているが、これは、収用に伴う損失補償に関する争いは収用そのものの適否に関わりなく起業者と被収容者との間で早期に解決させるのが適当であるとの趣旨に基づくものと解され、これに、法一三二条(昭和四二年法改正前のもの)は収用委員会の裁決についての行政不服審査法に基づく審査請求においては損失補償に関する不服をその裁決についての不服の理由とすることはできない旨定めていることをも併せ考慮すると、収用委員会を被告とする収用裁決の取消訴訟においては、裁決事項のうち損失補償についての違法事由を裁決自体の取消事由として主張することはできないというべきである。

原告の指摘する残地補償の要否は、収用に伴う損失補償の範囲ないし額に関する事項であるから、これに関する不服を裁決自体の違法事由として主張することができないことは前判示の諸点に照らして明らかである。

四  争点4について

1  法一五条の二ないし六(同条の二及び四については昭和四二年法改正前のもの)所定のあっ旋は、事業用地の取得に関して関係当事者間に合意が成立するに至らなかったときに当事者からの申請に基づいてあっ旋委員により行われるものであり、事業認定の告示(本件当時の規定によれば土地細目等の公告の申請)があった場合にはあっ旋の申請ができず、また、右告示(土地細目等の公告)があった場合にはこれを打ち切るものとされていることを考慮すると、あくまで強制的な手続が開始するまでの間に円満な解決が可能な場合に行われる任意的な手段として位置づけられるのであって、収用裁決手続それ自体の一環をなすものではないとみるべきである。

そうすると、あっ旋について何らかの手続的な瑕疵があったとしても、収用裁決の取消事由とはならないと解すべきであり、この点に関する原告の主張はそれ自体において失当である。

2  また、前判示の各事実に〔証拠略〕を総合すると、本件起業者は、昭和三五年度から本件事業用地の任意買収を進めていたが、原告のみがその所有地について買収に応じなかったことから、昭和三九年五月一一日伊那建設事務所において原告との間で法四〇条(昭和三九年法改正前のもの)に基づく協議を行うこととし、原告の代理人としてその兄小林昭午らが、本件起業者側では長野県土木部管理課用地係長及び伊那建設事務所長らの担当者がそれぞれ出席し、事業用地の買収について話し合ったが、右小林昭午は、これより先に上伊那郡伊那土地改良区が本件区域を含む付近一帯の土地について行った換地処分について、原告の従前の土地の面積を誤認した上、換地の承認印を偽造したなどの手続的な瑕疵があるから、無効である旨主張し、本件起業者側から本件事業用地買収の問題と切り離してもらいたい旨要請されたのに対しても、換地処分の件が解決しなければ買収についても了解できないと答えたため、本件起業者側担当者は、協議の成立を断念し、収用裁決に委ねる旨述べ、小林昭午もこれを了解したことから、本件協議は不調に終わったものと認められる。なお、甲第二三号証(原告の陳述書)中の本件協議の内容に関する部分には、右認定と趣旨を異にする記載も存するが、その場に出席していなかった原告が伝聞により記述したものであって、前掲各証拠に対比して採用できない。

したがって、本件起業者側が昭午の意見を全く聞かないので本件協議を終了させたというような瑕疵はない。

五  争点5について

前判示の各事実に〔証拠略〕を総合すると、本件起業者は、昭和三五年度から本件事業用地の買収交渉を行い、特に昭和三七年六月ころから原告と交渉を重ねてきたが、原告が前記換地処分により農地が減少したなどと不満を抱き、買収交渉に応じなかったことから、収用裁決による解決が適当と判断して、前判示のとおりの経過を辿り本件申請に至ったことが認められる。原告が信義則に反すると主張する諸点については、換地処分について何らの権限を有しない南箕輪村長がその違法の是正を約するということ自体が不自然であり、前判示の経過事実に照らしても、原告主張のような事実があったことを窺うことができず、他にその事実を認めるに足りる的確な証拠も存しない。なお、〔証拠略〕によっても、南箕輪村長が昭和三七年六月二〇日ころから原告側に対し本件区域の買収手続に関する書類への押印を要請するなどした事情が窺われるものの、同村長が原告の母から要請に対し、同年八月九日付けで換地処分の問題は一切解決済みと思われる旨回答したというにとどまるから、これをもって同村長が原告所有地を過小に評価した換地処分の是正問題を解決することを約したと認めることはできない。

また、本件起業者が原告主張に係る事実経過を知りながら本件申請に及んだことを窺わせる証拠はない。

そうすると、本件申請に関し原告が指摘するような信義則違反の事実は存しないので、この点に関する原告の主張を採用することはできない。

六  結論

以上の次第で、本件裁決には取消事由に該当する違法性が存するとの原告の主張はいずれも認めることができず、本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齋藤隆 裁判官 針塚遵 島田尚登)

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